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宝塚歌劇雪組東京公演『星逢一夜』感想 [宝塚歌劇]



2015年9月19日(土) 東京宝塚劇場 15:30開演


ミュージカル・ノスタルジー『星逢一夜(ほしあいひとよ)

作・演出/上田久美子
作曲・編曲/高橋城、青木朝子、高橋恵
音楽指揮/西野淳
振付/若央りさ、峰さを理
殺陣/清家三彦
装置/新宮有紀
衣装/任田幾英
照明/勝柴次朗
音響/実吉英一
小道具/加藤侑子
演出助手/指田珠子
衣装補/加藤真美
舞台進行/片桐喜芳


『月雲の皇子』、『翼ある人びと』でスマッシュヒットを放ち続けている上田久美子先生の大劇場公演デビュー作。期待を遥かに越えた、素晴らしい舞台でした。


【あらすじ】

九州の山間部に位置する小藩、三日月藩。藩主・天野家の次男、天野紀之介(早霧せいな)は、幼い頃から星を観察するのが大好きで、城を抜け出しては天体観測に夢中になっていました。ある時、紀之介は源太(望海風斗)や泉(せん/咲妃みゆ)ら、領内の村に住む子どもたちと出会い、協力して「星観(ほしみ)の櫓」を作ります。子どもたちは毎晩、その櫓の上から星を見上げ、満点の星空を眺めました。

しかし3年後、別れの時はやってきます。兄が急死したため、急きょ天野家の跡取りとして育てられることとなった紀之介は江戸に上がることになったのでした。泉の言葉に背中を押され、旅立ちを決める紀之介。彼は泉に、自分の小太刀を贈ります。それが、その時の紀之介に出来た、精一杯の泉への思いの証。「苦しくなったら、星を見ろよ、泉!」そう言い残して、紀之介は江戸へ旅立つのでした。

時の将軍、徳川吉宗(英真なおき)にその才覚を認められた紀之介は、天野晴興(はるおき)と名を改め、吉宗の片腕として手腕を発揮し始めます。吉宗の姪である貴姫(大湖せしる)との婚礼も整った晴興は、その報告のため、7年ぶりに故郷・三日月藩へと戻ることになりました。

折しも季節は、地元では「星逢(ほしあい)」と呼ばれる七夕祭の季節。その祭の場で晴興は、美しく成長した泉と再会します。泉は、近々源太と祝言を挙げることになっていました。

いつの日からか、お互いに友情以上の思いを抱いていた晴興と泉。しかし、2人の住む世界はあまりにも違い過ぎました。

誰よりも泉のことを想い、誰よりも泉の思いを知る源太は、「姫さんとの婚礼を断って、泉を幸せにしてやってくれ」と晴興に懇願します。しかし、すでに幕府の要人としての地位を登り始めていた晴興に、そのようなことが出来るはずはありません。晴興は想いを殺して、泉を源太に託すのでした。

さらに10年の時が経ち、吉宗の掲げる「享保の改革」を推し進める晴興は日夜、激務に追われていました。強引すぎる年貢改革は農民の生活をさらに圧迫し、全国各地で一揆の動きが広がり始めていました。そしてその波は、晴興の領地であり、故郷でもある三日月藩にも押し寄せていたのです。

ついに、源太を首領とした一揆が三日月藩で勃発します。晴興はこれを鎮圧させるべく、故郷へと戻り、そして泉と、源太と再会します。

星も見えない雨の夜、ついに、3人の運命は時代の流れに押し流されていきます…。


【カンゲキレポ】

久しぶりに、終演後も、場面ひとつひとつ、演者の動きのひとつひとつ、科白の一言一言、全ての瞬間を噛みしめて、いつまでも味わっていたいと思えるお芝居でした。

ええ、


号泣しすぎて吐きそうになりました(笑)。


と言うのは冗談にしても(いや事実に近い)、これが大劇場公演デビュー作とは思えないほど、完成度の高い作品でした。

胸が押しつぶされそうになるほど苦しくて、切ない物語なのに、観終わった後はカタルシスのような美しさと清々しさにあふれていました。

観劇後に真っ先に思ったのは、「これは"名品"だな」ということ。

何度も再演してほしい「名作」ではなく、もうこれ以上は再演してほしくない、この出演者で、この配役のままで、何度も何度も心の深いところに大切にしまっておきたいと願う「名品」の舞台でした。

怜悧な美貌の中に優しさと純粋さを秘めた晴興は、早霧せいなでなければならないし、友を、愛する者たちを常に深く思い、熱く行動する源太は、望海風斗でなくてはならないし、そして、そんな2人が誰よりも愛した泉は、咲妃みゆでなければならなかった。全ての役は、その役を演じた生徒以外には考えられない。

それほど、パズルの全てのピースがすべてぴったり当てはまった方のような完成度でした。

私が「名品」だと信じている宝塚の作品は、これまでたったひとつだけでした。花組バウホール公演『月の燈影(ほかげ)』がそれです。

人生のうちで、2つ目の「名品」の舞台に巡り合えたこと、幸せに感じます。

どの場面を観ても、脚本、装置、音楽、照明、演者の動きや科白ひとつひとつまで、全て計算され尽くしていて、それでいて日本人らしい情感にあふれていて、とにかく美しい。

特に、盆セリがとても効果的に使われていました。ひとつ取っても、ただの場面転換ではなく、年月の経過を感じたり、晴興と泉の心の揺れと葛藤を表現していると伝わってくる演出なのです。ここ数年の大劇場デビュー組の中で、誰よりも大劇場空間を掌握して巧く演出していましたよ。すごいよ、久美子先生!!(←タメ口ですみません)

幕開きの場面は、圧巻です。静かに広がる漆黒の舞台。蛍の光にも、星の光にも見える光球がひとつ、ふたつと現れ、やがて渦となって輪郭を描くように円を舞台上に作る頃、舞台真ん中にスッとサスライトが降り、その中に浮かび上がる晴興(早霧)の姿。

もう、この場面だけで、物語の空気感、世界観が一瞬で伝わってきて、ここでまず号泣(早)。

あとは、「九州の真ん中の小さな藩」ということで、私にとっては昨年まで通っていた大分県玖珠町を思い出して、じんわりきました(笑)。玖珠町は江戸時代、「森藩」という1万4千石の小藩でしたので。あ、でも三日月藩は3万石でしたね。

閑話休題。

三日月藩で一揆が起こることから、物語は結末へと突き抜けていくのですが、そのメリハリの効いた流れも本当によく考えられていると思います。晴興と源太が真剣勝負に挑む場面は、お互いがお互いを想うが故の壮絶な決意と気魄が客席まで覆い尽くし、呼吸をするのも忘れて見入ってしまいました。

そして、最後の晴興と泉の場面。晴興が故郷で過ごすことのできる最後の夜は、やはり星逢の日でした。

かつて、晴興に贈られた小太刀で、夫の敵を討とうとする泉。その手を掴んで、自ら小太刀を喉元に引き寄せ、「泉、仇を取るがいい」と静かに、真っ直ぐに泉に語り掛ける晴興。

あれほど凄絶な、そして悲痛なラブシーンを見たことはありません。その後に続く会話も、抱擁も。嗚咽なしには見られません。

そして、季節は廻り、1年後の、星逢の日。母として子どもたちを気丈に育てる泉は、星空を見上げて涙を流します。

ここで、舞台は3人が初めて出逢った子ども時代へと、一気に戻るのです。

幼い源太がニコニコしながら星観の櫓に上ってきます。晴興も紀之介に戻り、笑顔で手を振りながら源太のもとへ駆け寄ります。そして泉も。

3人並んで座ると、キラキラした瞳で星を見上げます。

誰もがいちばん純粋無垢だった時代。世の中のしがらみ、生きていく苦しさなど忘れて、夢中で見上げた星空。天真爛漫な笑顔を見せる子ども達の姿に、かえって胸が締めつけられます。

でも、この場面は単なる回想ではなく、まさに今、晴興と泉の2人が同時に思い出している記憶の光景なのでは、とふと考えついた瞬間、もう涙が止まらなくなりました。

前場、星逢の祭の最中にふと星空を見上げて、静かに涙を流した泉。同じ時、一揆の責任を負って遥か遠く陸奥国へ流された晴興もまた、きっと同じ星空を見上げている。

遠く遠く離れた場所で、同じ時に、同じ星空を見上げながら、晴興と泉が共に思い出しているのは、たったひとりの存在―――


源太のこと。


だからこそ、あの最後の場面で最初に走りこんでくる子どもは、源太なのですよね。

久美子先生の仕事は、刀剣職人のような印象を受けます。本人の作品から言葉を借りるとしたら、「あるべきものが全てあって、無駄なものがひとつもない」。(2014年宙組公演『翼ある人びと』より)

無駄のない脚本と、隙のない演出、際限まで研ぎ澄まされた世界観。彼女の力量に、改めて脱帽です。こんなに涙を絞り取られるなんて、思いもしませんでした。





少しずつ、出演者の感想を。


★早霧せいな(天野晴興)

少年時代の天真爛漫な笑顔と、大人になってからの怜悧な美貌が素敵でした。その怜悧な表情の中に湛える痛みや悲しみも過不足なく漂わせていて、本当に抱きしめたくなるほどでした(←落ち着け)。

まず、日本物の所作がとても美しい!!源太との真剣勝負での殺陣は、隅々まで真剣の行き届いた美しい所作と鋭さで、九州の田舎で伸び伸びと育っていた彼が、江戸に上ってから「大名としての立ち居振る舞い」を磨き上げたのだと思うと、感心すると同時に哀しさも感じました。

最後の場面は、とめどなく流れる涙を払うこともせずに大熱演。ただただ、切なくて、美しくて…。「美しく涙を流せる人だなぁ」と感動しました。

早霧はトップになってからお芝居は作品に恵まれていますね。前作のルパンⅢ世と言い、今回の晴興と言い、当たり役が続きます。このまま、次回作の「るろうに剣心」も突き進んでしまえ、ちぎちゃん(早霧)!!


★咲妃みゆ(泉)
九州弁の科白が心地よくて、「里の女」を過不足なく演じていました。たおやかで、芯が強くて、娘であり、妻であり、母である「泉」を、美しく、儚く、観客の共感を集めて演じ切った咲妃は、本当に芝居が好きなのだと思います。

夫となった源太に向かって「遅かったですね、どこに行ってらしたの」という何気ない科白が素晴らしくて、その後に続く源太との会話もお互いに思いやりをもって寄り添って暮らしてきた年月を感じさせて、本当に芝居が巧いな~と感心しました。


★望海風斗(源太)

誰よりも村のことを思い、晴興を思い、泉を思い続けた源太。星逢の祭の場面、銀橋で歌う姿がカッコよくてシビレました!「言おうかな 言うまいか お前が好きさ♪」と歌う場面では、「やだ!言って言って!!好きって言って!!(*ノωノ)」と客席でキャピキャピしていたのは、私だけでないはずです(笑)。

一揆の場面、晴興と掛け合いで歌う姿には、全てを受けいれて、全てを決意した男の強さと凄味にあふれていて、胸をかきむしられるようでした。

そうそう、「ル・サンク」の54ページに掲載されている、祭衣装に身を包んだ源太(望海)の写真が、とってもとっても素敵でっす!!なんて色っぽい顔をしているの!!と、思わず取り乱すほどに美しい顔立ちをしています。


★英真なおき(徳川吉宗)
いや~!「ザ・吉宗」って感じでした!!(←なんだそりゃ)重々しい科白回しと言い、長袴のさばき方と言い、どこからどう見ても「ザ・吉宗」!!「国の父」としての厳格さと改革のためには手段を辞さない強さ、少年の晴興を政治の表舞台に引き上げた父のような大きさを場面ごとに演じ分けて、専科生としての役割をきっちりと果たしていました。


★大湖せしる(貴姫)
勝気な美姫ですが、ただの気の強いお姫様ではなく、将軍の姪という立場をもって政略結婚で結ばれた晴興を思い、彼のために心を尽くしている姿が、わずかな出番の間にしっかりと表現していました。この役にも印象深い科白があって、その科白でヒロインの泉の存在感が際立つのです。

このように、主要キャスト陣には必ず心に刻み込まれるような印象的な科白がひとつふたつあるんですよね。返す返すも久美子先生、凄いな…。


★早花まこ(美和/あおさぎ)
前半は三日月藩主の側室かつ紀之介の生母、後半は夜鷹という正反対の役どころを、きっちりと演じ分けていました。きゃびぃ姐さん(早花)、もう雪組になくてはならない存在です。





今の雪組に、早霧・咲妃・望海という3人の役者がそろっていた奇跡に、心の底から感謝したくなるお芝居でした。夜空にさざめく星の光のように、今でも私の心の中をきらり、きらりと照らしてくれるような余韻に浸っています。
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ラブ

とろりんさんが強力お勧め作品なので、観たらすごいんでしょうね。
「名作」と「名品」の違い、なかなか深いです。
by ラブ (2015-10-09 10:42) 

★とろりん★

ラブさま

nice!とコメント、ありがとうございます。

はい、本当に情感豊かな名品でした。観ることができて、良かったです。
by ★とろりん★ (2015-10-09 18:31) 

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