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稲越功一作品展 「播磨屋 一九九二-二〇〇四 中村吉右衛門」 [歌舞伎]

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2015年11月3日(火・祝)~11月29日(土)
JCIIフォトサロン

詳しくはこちらへ


国立劇場の最寄駅、東京メトロ「半蔵門」駅に近いフォトサロンで、中村吉右衛門丈の写真展が開催されていたので、足を延ばしてみました。

写真家・稲越功一(1941~2009)が、1978年~2004年の間、30年以上にわたって撮影し続けた吉右衛門丈の写真作品のうち、1992年~2004年にかけて撮影された作品、約60点(全てモノクロ)が展示されています。

心地良い空間にバランス良く展示されている写真は、どれも播磨屋の舞台に懸ける情熱と思いの深さが手に取るように伝わってきて、凄みと迫力が違います。

写真として撮影されているのは、以下の作品とお役。


『近江源氏先陣館』 佐々木盛綱
『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』 大判事
一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』 熊谷直実
『松浦の太鼓』 松浦鎮信
天花粉上野初花(くもにまごう うえののはつはな)』 河内山
時今也桔梗旗揚(ときはいま ききょうのはたあげ)』  武智光秀
『増補双級巴(ぞうほふたつどもえ)』 石川五右衛門
『勧進帳』  弁慶/富樫
『義経千本桜 大物浦』 平知盛
『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょう くるわにっき)』 濡髪
『仮名手本忠臣蔵 七段目/十一段目』 大星由良之助
『色彩間刈豆(いろもようちょっとかりまめ)』 与右衛門
『ひらかな盛衰記』 樋口兼光
『鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)』 一條大蔵卿
『奥州安達原』 安部宗任
『土蜘』 智籌
『身替座禅』 山蔭右京
『敵打天下茶屋聚』 元右衛門
『昇龍哀別瀬戸内(のぼるりゅう わかれのせとうち) 藤戸』 老母藤浪/漁夫の霊
『巴御前』 巴御前/木曽義仲の霊
『平家女護島』 俊寛
『梶原平三誉石切』 梶原平三


ざっとご覧いただいてもわかるように、まさに、写真で1992~2004年の間、12年にわたる吉右衛門丈の舞台での歴史が、そのまま写真となって息づいているように思えるのです。

「これぞ播磨屋!」と言われる当たり役は勿論、「へぇ、このお役もなさったんだぁ」とちょっと意外なお役(『かさね』の与右衛門を勤めていらっしゃるのは初めて知りました)、ご本人が台本を書いた作品、12年間の吉右衛門丈の来し方を写真を通じて感じることが出来ました。

作品には、それぞれキャプションで文章が添えられているのですが、「俊寛」に添えられていた文が心に残りました。

「俊寛」は、長らく上演が途絶えていたものを、吉右衛門丈の祖父でもあり、養父でもあった初代吉右衛門が復活させたのだそうです。

―演じることで、初代との、対話をかさねてきた。それが「俊寛」なのだ。-

俊寛は観るのにとてもつないエネルギーを要する舞台ですが、吉右衛門丈の俊寛は、見るたびに心を震わされるのです。やっぱり、丈にとっても大切な、大切なお役なのですね。この文を読んで、やっぱり歌舞伎って凄いな、素晴らしいなと思いました。

どの写真も本当に惚れ惚れするほど丈の魅力があふれていますが、個人的に心に残ったのは、富樫、藤浪、大蔵卿、土蜘、松浦の殿さま、そして俊寛の写真です。

藤浪と土蜘は、闇との対比が素晴らしい。富樫、俊寛、大蔵卿は、並々ならぬ決意と覚悟を感じさせる強い眼差しに心を貫かれ、松浦の殿さまの、写真でも伝わってくる鷹揚さに心和みます。

サロン内には、稲越氏が愛用したカメラの同型品、愛用のスニーカー、著書なども展示されています。『百一人の肖像』(求龍堂、2007年)には、素顔で撮影された吉右衛門丈の写真掲載ページが開かれて展示されています。穏やかな表情に中に見える、揺るぎのない光…。このお写真も好きです。

写真展は、今度の日曜日まで開催中。播磨屋贔屓の方も、歌舞伎ファンの方も、写真が好きな方も、たくさんの方に見ていただけますように!


歌舞伎座ギャラリー 「体験空間 歌舞伎にタッチ!」 [歌舞伎]

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2015年5月4日(月)スタート
歌舞伎座ギャラリー(GINZA KABUKIZA 歌舞伎座タワー5階)
10:00~17:30 
※最終入館は17:00まで

詳細はコチラから

銀の塔」でぜいたくな時間を過ごした後は、歌舞伎座ビル5階にある歌舞伎座ギャラリーにて開催中の、「歌舞伎にタッチ!」展へ。

サブタイトルは、「しる・みる・ふれる・やってみる」。

その言葉通り、歌舞伎の舞台に登場する小道具や大道具、衣裳、鳴物などが大集合!ほとんどの小道具がふれてOK、撮影OK(フラッシュ禁止)という、歌舞伎ファンには興味津津のイベントです。入場料は大人600円、小・中学生500円、小学生未満は無料です。


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展示会場入口に設置されていた、マジックイラスト。所定の位置から写真を撮ると、イラストが立体的に浮かび上がってくる仕掛けです。

入口を通過すると…いきなりテンションが上がりますよ~!


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歌舞伎の舞台に欠かせない、お馬さん!

こちらのお馬さんは、『源平布引滝』の「実盛物語」に登場します。


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主役が乗る馬ですから、飾りもすごく豪華。


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鞍も細かいところまで美しい装飾がほどこされています。


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もちろん、乗って写真を撮りましたとも(笑)。

最近、競馬もマイブームなカンゲキ仲間。「岩田(康誠)ポーズ!」「池添(謙一)ポーズ!」「ミルコ(・デムーロ)、ミルコ!」と、ジョッキーの方々のウィニングポーズを決めてはしゃぎまくり(笑)。

鞍上からの景色は、思っていた以上に高く感じました。この上で気持ちを込めて演技をするのって、難しいだろうなぁ。馬役の役者さんと、上に乗る役者さんの間に信頼関係がなくてはできないことですね。


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遠近感を出すために使用する「はにほろ」。

『一谷嫩軍記』より「陣門・組打」の場で使用されているものです。


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これは、歌舞伎ファンの誰からも愛されていると言っても良い(かもしれない)動物キャラ、猪くんです!

『仮名手本忠臣蔵』五段目で大活躍するのですよね~。


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『十種香』に登場する白狐。


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『髪結新三』に登場する、初ガツオ。



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伽蘿先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』より「御殿の場」で、幼い若君・鶴千代が飼っている雀さん。


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『金閣寺』で、桜の木に縛り付けられた雪姫を助け出す鼠さん。可愛い☆

ちなみに、後ろに映っているのは、イヤホンガイドのキャラクター、「くまどりん」です。


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『菅原伝授手習鑑』二段目に登場するにわとり。

かなり精巧に造られています。


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差し金の蝶で遊んでいると…ふと見つけた、展示棚の上にちょこんと座っている鼠さん!

こういう遊び心、好きですわ~☆

このコーナーには、胡蝶が登場する時に使われるオルゴール(和楽器)や、蛙の鳴き声を出す時に使う二枚貝なども展示されています。もちろん、体験できますよ!


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『御存鈴ヶ森』で仕様される駕籠。

こちらにも、乗って写真撮影ができます!駕籠の中には椅子のような木組みがあって、その上から布が被されているのですが、その中に腰をはめるのに、結構苦労しました。

ここではお仲間と、『鈴ヶ森』のあの名場面を再現しましたよ~(笑)。


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船~♪

櫓を漕いでみることもできますが、思った以上に重い!この船にお仲間と乗り込み、『俊寛』の一場面を再現しました(笑)。


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うちわの片面に、ビーズのような丸い小さな玉がいくつも取りつけられています。これをバタバタと動かして、雨を表現するのですよ~!


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『助六』より、揚巻の衣裳も展示されていました!


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花魁道中で、身に着けている鬘と高いぽっくり。

女形さんて、大変だぁ…。


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『仮名手本忠臣蔵』より「寺子屋」の舞台セットが再現されています!

上手には床もあり、義太夫と三味線の気分になりきることもできます。

ちなみにこの舞台セットの反対側では、歌舞伎についてまとめられたVTRが流れています。私たちは見たのは「歌舞伎に登場する馬」をメインにしたもの。『実盛物語』や『小栗判官』、『馬盗人』、『矢の根』などの舞台映像を見ることができます。勘三郎さんや三津五郎さん、懐かしい役者さん方の舞台を拝見できて、嬉しい限りでした。

舞台セットにも、上がることができます!


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涎くり与太郎の机。落書きばっかり(笑)。


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菅秀才の机。


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歌舞伎ファンにはなじみのある、早蕨紋様の暖簾。

裏に回って、その仕組みを学ぶことができます。


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こうして、細い糸が仕掛けられていて…


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引っ張ると、ひらりと暖簾が上がる仕組み。


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再現舞台の下手には、ちゃんと花道、揚幕も再現されているのですよ~!

花道の長さはコンパクトサイズですが、揚幕は実寸大ではないかな?開け閉めすると、ちゃんと鈴の音が鳴るんですよ!テンションあがりました!

『弁天娘女男白浪』より「稲瀬川勢揃いの場」で使用される傘と、舞踊『藤娘』で使われる藤の枝。実際に手に取って撮影できます!

でも、実際に舞台でのポーズをとりながら…と考えて真似しようと思っても、難しいものですね。「あれ?右手はどうだったっけ?足はどっちの方向だっけ?」となってしまいます。動きひとつでも様式美を追求された歌舞伎ならでは、ですね。


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下手袖には、ちゃんと御簾内も再現されています!

これらの鳴り物も、実際に体験してみることができます。でも、難しい~!!


***


展示スペース自体はそれほど広くはないものの、体験コーナーが満載で、歌舞伎好きにはたまらない空間です!歌舞伎見物に合わせて、ぜひぜひ足を運んでみてください!今のところ、8月末までは開館している模様です。


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木挽町広場は、初夏らしい装いになっていました。

季節が過ぎるのは、早いですね。


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坂東三津五郎丈 [歌舞伎]

また辛すぎる別れの報せに、言葉が見つかりません。

三津五郎丈の踊りが、本当に本当に大好きでした。

大和屋の『京鹿子娘道成寺』を観ることができた事、私にとっては人生の宝物です。

これからはどうか、自由な場所で、自由に踊り続けてください。

心から、ご冥福をお祈り申し上げます。


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新春浅草歌舞伎 第1部 [歌舞伎]

2015年1月11日(日) 浅草公会堂 11:00開

今年の初芝居は、フレッシュな浅草公会堂から!今年から主役陣が一新された新春浅草歌舞伎です。


お年玉 年始ご挨拶

坂東巳之助、中村米吉

浅草歌舞伎恒例となった、主要キャストによる開演前のご挨拶。この回では、坂東巳之助と中村米吉。

翌日が成人の日という事もあり、話題は成人式へ。それぞれの思い出を語ってくださいました。


巳之助:5年前。成人式で母校(青山学院)の同級生に再会した。「これから同窓会があるから一緒に行こう」と誘われ、ついて行ったら、「青山学院"高"等部」の同窓会で、「青山学院"中"等部」卒業の自分は、肩身が狭い思いをした。

米吉:2年前。ちょうど大雪が重なった年の成人式だったので、大変だった。スーツで決めて行ったら、同級生に、「いつも着物を着ているのに、なんで今日はスーツなの?」と言われた。こんな大雪の日に本物の着物で出かけたら、親に何言われるかわからないっつーの!(笑)

…と、ちまたで最近、「可愛すぎる女方」と評される米吉丈がキレたところで(笑)、この日の番組の簡単なあらすじ紹介と解説、観劇上の注意(携帯電話は電源OFF)。

若い2人の現代っ子トークに笑いながら、いよいよ開幕でーす!


『春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)

曽我五郎/尾上松也
静御前/中村児太郎
曽我十郎/中村隼人

1月7日には春の七草を摘み、七草粥を作って食べる、という行事がありますが、その行事を背景にした舞踊劇です。七草を調理するような振りがあったり、歌詞に春の七草が出てきたりと、まさに新春にふさわしい一幕。

幕が開くと、左右に紅白の梅を描いた障子。それがゆっくりと開くと、松竹梅とはるかに富士山が描かれた書割。障子に描かれていた紅白の梅の枝はそのまま続き絵のように書割につながっています。

そしてその書割を背景に、蘇我兄弟と静御前がポーズをとっています。お正月らしい晴れやかな幕開け!

最近、テレビや外部の舞台に出演することの多くなった松也。もう少し舞踊の基礎を積んで欲しいですね。長袴の扱い方が未熟。脚で所作台を踏みならす音も、力任せに踏み過ぎて、音が床に抜けないので、心地よい音として響かないのです。こういった所作ひとつにも、鍛錬の上に抑制された動きが必要になるのだなぁと実感しました。けれど、座頭として物怖じすることなく舞台を務める心意気は立派です。

隼人も、長袴の扱いがちょっともたついていたかなぁ。端整な踊りでした。

目を見張る出来栄えだったのは、児太郎の静御前。彼の舞台を拝見するのは本当に久しぶりでしたが、清冽な空気感にしっかりとした踊りで、舞台をしっかりと引き締めていました。


『一條大蔵譚
いちじょうおおくらものがたり)』 奥殿

一條大蔵長成/中村歌昇
常盤御前/中村米吉
八剣勘解由/中村吉之助
鳴瀬/中村芝のぶ
お京/中村児太郎
吉岡鬼次郎/尾上松也

【あらすじ】

時は源平時代。源氏の棟梁、源義朝の妻、常磐御前(米吉)は息子たちの助命と引き換えに平清盛の元に身を寄せますが、やがて都一の阿呆と言われる一條大蔵卿長成(歌昇)のもとへと引き下げられます。

常磐御前が夜な夜な揚弓に興じていると言う噂を聞きつけた源氏の家来、吉岡鬼次郎(松也)は、妻のお京(児太郎)の手引きで一條家の屋敷に潜入します。常磐御前の部屋まで来てみると、噂通り、揚弓に興じている様子。失望した鬼次郎は常磐御前の忘恩を責め、したたかに打ちすえます。

ところが、常磐御前の的の裏には、平清盛の絵姿。常磐御前は揚弓と見せかけて、清盛の絵姿を矢で射ることによって、夜な夜な平家調伏を祈願していたのです。常磐御前の真意を知り、無礼を詫びる鬼次郎とお京。

ところがそれを、平家に内通する館の家老、八剣勘解由が聞きつけます。妻・鳴瀬(芝のぶ)が制止するのも聞かず、清盛に知らせて手柄を立てようと駆け出します。その勘解由を、御簾内から何者かが長刀で切りつけます。

切りつけたのは、この館の主である一條大蔵卿。実は大蔵卿は源氏にゆかりある身であり、平家にすりよることを嫌い、30年ほど作り阿呆を装って生きてきたと打ち明けます。

死ぬ間際でも手柄と金に固執する勘解由にとどめを刺した大蔵卿は、源氏の重宝友切丸を鬼次郎を譲り渡し、源氏再興の望みを託します。そして大蔵卿は平家を欺くため、再び作り阿呆に戻っていくのでした。

【カンゲキレポ】

歌昇の舞台をちゃんと拝見するのは今回が初めてでしたが、役の性根をきちんと解釈している事が伝わる大蔵卿でした。何十年も阿呆を装い続けなくてはいけないという境遇、それを信念として貫き通す意思の強さ、鬼治郎に真実を打ち明けて全てを託し、再び阿呆へと戻っていく悲劇性…。歌昇は深く解釈して、丁寧に演じていました。

特に、正体を顕した瞬間に見せる一瞬の表情にただならぬ凄みがあり、初見の方でも、大蔵卿が只者ではない人物だと直感させるような気迫がありました。それだけに、阿呆を装って最後に見せる笑いが哀しく、切なく胸に迫ります。

米吉の常盤御前も秀逸。登場前に御簾内からかかる最初の台詞、「嬉しや願いは通り矢」は声にハリも艶もあって、これから始まるドラマに十分な期待を持たせるものでした。

鬼次郎(松也)&お京(児太郎)のコンビも良かったです。血気盛んな若い夫をなだめるしっかり者の妻…というコンビネーションで、息もぴったり。

吉之助の勘解由、芝のぶの鳴瀬も緊迫感のある芝居を見せ、クライマックスを見事に引き締めていました。

最近、マスコミでは米吉を「可愛すぎる女方」と呼ばれているみたいですが(年末放送された「関ジャニ7」でも、そう紹介されていましたね)、私の中では、「可愛すぎる女方」というと、どうも芝のぶさんのイメージなんですよね~。ちゃんとした理由もありませんが、「可愛い女方」というと、芝のぶさんがパッと思い浮かびます。

なのでこの場は、「米吉くんと芝のぶさん、可愛すぎる対決だ~☆」と、一人で勝手にニマニマしていました(笑)。

若手の熱気あふれる、素晴らしい舞台でした。


『独楽売
(こまうり)』 長唄連中

坂東三津五郎 振付
坂東三津也 振付

独楽売 千吉/坂東巳之助
芸者/中村米吉
雛妓/中村鶴松
雛妓/中村梅丸
茶屋女房/中村芝のぶ
独楽売 萬造/中村種之助


歌舞伎興行では60年ぶりの上演という『独楽売』。30分弱の短い風俗舞踊ですが、巳之助の美しい舞踊をたくさん見ることができて、大満足です!!

巳之助は、踊りの中で一つ一つの所作がきちんと決まるのですよ。所作台を踏みならしてから客席に背中を見せ、右腕はスッと伸ばして右膝をぐっと曲げて、左足をぐーっと伸ばして舞台奥を仰ぎ見るような振りがあるのですが(わ、わかりにくくてスミマセン…)、そのキマりの美しさと言ったら!

『娘七種』でも書きましたが、所作台を踏みならす時でも、「ドン!」という音が綺麗に抜けていくので、耳から身体中に、心地よく響きます。ちゃんと身体の重心がぶれずにキマるので、舞踊の鍛錬をきちんと積み重ねてきているのだなぁと感心しました。

演者が全力で舞台を務めることはもちろん大事ですが、自分の心身をしっかりコントロールできなければ、美しく心地よく見せる事はできません。巳之助の踊りには、すでにその心構えができているように感じました。

巳之助の舞踊を存分に楽しむことが出来て大満足ですが、予想以上に感動したのが、獅子舞!

筋書には獅子舞の配役は記載されていなくて…。「若い者」として名前が記載されている坂東八大と尾上松五郎かな?と思うですが、とにかくこのお獅子がスーパーミラクル凄かった!(語彙が貧相)次か次へと、素晴らしい跳躍やひねりや大技を決めるのですよ!これはぜひ、多くの皆様にご覧いただきたい!


* * *


お正月らしい曽我物の舞踊に、熱気あふれる時代物、若手ながら玄人の域さえ感じさせる巳之助の舞踊を拝見できて、心浮き立つ浅草歌舞伎でした。


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歌舞伎座 八月納涼歌舞伎 第三部 [歌舞伎]

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たとえ値上げしたとしても…美味いものは美味い…!(←今回もしっかりいただきました♪)

2014年8月16日(土) 歌舞伎座 18:15開演

K友さん(KはKABUKIのK)からお声がけいただき、納涼歌舞伎を見物してまいりました~(いつもありがとうございます☆)。納涼歌舞伎は初めてじゃないかな?とっても楽しかったです!


勢獅子
(きおいじし) 常磐津連中

鳶頭/坂東三津五郎
鳶頭/中村橋之助
鳶頭/中村獅童
芸者/中村七之助
手古舞/坂東新悟
鳶の者/中村国生
手古舞/中村鶴松
鳶の者/中村虎之助
手古舞/中村児太郎
鳶頭/坂東巳之助
鳶頭/中村勘九郎
鳶頭/坂東彌十郎
芸者/中村扇雀

私にとっては、病気療養から復活なさった三津五郎丈を久しぶりに拝見できる舞台。

いや~もう、花道から三津五郎丈から登場なさっただけで、思わず目頭が熱くなってひとりでぐすんぐすん言っていたのは私です(笑)。ひとり、扇子の扱い方からしてもう違う!大和屋!!

オペラグラス越しですが、登場された時にちょっと白粉のノリが良くないような、お顔の色がすぐれないような気がして、お疲れかな…暑さのせいかな…と一瞬心配したのですが、舞踊も相変わらずの滑らかさ!足のさばきも美しくて、腰が決まっていて、やはり素晴らしい!一本締めも参加させていただき、感無量です!

ご祭礼を祝って、鳶の者や芸者さん、手古舞が交互に踊るのですが、三津五郎=巳之助、扇雀=虎之介、橋之助=国生(児太郎)、彌十郎=新悟、勘九郎=七之助(鶴松←一門)と、親子や身内同士の共演もあって、彼らがずらりと並んでいる舞台を眺めているだけでも、何だかウハウハします(笑)。

いちばん印象に残ったのは、勘九郎と巳之助による獅子舞!やっぱり勘九郎は踊りが巧い~!!獅子の足さえも軽やかで楽しそう!

巳之助は、床几に座っている段階からすでにイケメンで、釘付け(笑)。さすが、「抗いきれない色気」を持つ父にしてこの息子あり…!!(出典はコチラ


訪米歌舞伎凱旋記念
三世實川延若より直伝されたる
十八世勘三郎より習い覚えし
怪談乳房榎
(かいだんちぶさのえのき) 中村勘九郎三役早替わりにて相勤め申し候

菱川重信・下男正助・うわばみ三次・三遊亭圓朝/中村勘九郎
重信妻 お関/中村七之助
茶店の女 お菊/中村小山三
松井三郎・住職雲海/市川亀蔵
磯貝浪江/中村獅童


【あらすじ】

菱川重信(勘九郎)はもともと武家の出身でしたが、得意の絵の才能を認められ、当代随一の人気絵師として活躍しています。美しい妻・お関(七之助)と愛児・真与太郎にも恵まれて、充実した日々を送っていたのですが、ある日、浪人の磯貝浪江(獅童)がお関に一目ぼれしたことから、不穏な方向へと動き始めます。

お関に横恋慕した磯貝は、重信が泊まり込みで寺の天井画を描く仕事をしている最中、お関を脅迫して我が物にしてしまいます。そして菱川家の下男・正助(勘九郎)をも脅し、重信を殺害してしまうのでした。しかし絵師としての執念から、重信は亡霊となって現れ、見事に天井画を完成させるのでした。

お関を手に入れた磯貝は、今度は真与太郎の存在が疎ましくなり、再び正助を使って殺害しようと考えます。江戸から離れた場所にある滝壺に真与太郎を投げ捨てて来いと命ぜられ、悄然としながら真与太郎抱いて屋敷を出る正助。その後、浪江は旧知の仲であるうわばみの三次(勘九郎)に、真与太郎ともども正助を殺すように命じます。

言われた通りに滝壺へやってきた正助は散々に迷ったあげく、赤子を投げ込みますが、重信の亡霊がそれを引き止めます。改心し、真与太郎と共に逃げ出すことを決心した正助。そこへうわばみの三次が追いついて、滝壺の中で激しい小競り合いとなります。

一命を取り留めた正助は真与太郎とともにとある寺院に逃げ隠れます。その寺院の境内には榎の木があり、そのこぶから滴る液体を母乳代わりにして真与太郎は育ちます。やがて5歳になった真与太郎は、正助とともに浪江を討ち取り、見事に父の仇を討ち果たすのでした。

【カンゲキレポ】

『怪談乳房榎』は、歌舞伎では初見ですが、7年前に国立演芸場中席で聞い桂歌丸師匠の高座で聞いたことがあります。それはそれはもう、絶品でね……(その時の記事はコチラから)。その時のことを思い出しながらの見物となりました。

7月の訪米歌舞伎で上演された作品をそのまま上演しているようです。幕前のアドリブも英語が飛び出して、外国人のお客様は大喜びされていました。

ただ、大詰前の幕前の芝居で、最前列の観客にビニールシートを使う方法を英語で説明して、練習してみる場面があったのですが、思っていた以上に時間をかけていて、そこはちょっと飽きてしまったかな。だって、最前列以外のお客様には関係がない話なので…(←不熱心な客ですみません)(←その場の空気を楽しもうぜ!みたいな協調性がなくてすみません)。

落語の『乳房榎』では、お関(落語では"おきせ")と正助(同"正介")が、浪江に脅迫されて許し難い理不尽な要求を受け入れるまでの心理的描写が非常に丁寧に緻密に描かれています。

歌舞伎の『乳房榎』は、一大スペクタクル!早替わりあり、本水ありの、ダイナミックな舞台でした。

とにかく、勘九郎の三役早替わりが凄かった~!!文字通り、大奮闘。コンマ秒数を争うレベルの早替わりの連続で、最後の方はもう、何が何だか(笑)。ちなみに、圓朝役はカウントに入れないようです。

中でも、これは凄い!と思ったのは、茶屋での場面の早替わり。とある茶屋で正助と待ち合わせていた浪江は、偶然にうわばみ三次と出会います。首尾良く浪江から金を巻き上げた三次が階下へ降りると同時に、すれ違うようにして正助が階段を上がってくるという趣向。

舞台に穴が開けられて下へとつながる階段が作られているのですが、三次は顔だけを残して、「おう、お前さんが正助かい」などと階下に向かって話しかけたり、お互いによけようとして同じ側へ寄ってしまったり、という小芝居をちょっとだけして、三次が階下へ姿を消したと思った次の瞬間、正助がとっとっと、と階段を上がってくるのですよ!これ、勘九郎がひとりで演じ分けているんですよ!

着物はもちろん、鬘も変えているのです。衣裳や鬘にいろいろ工夫がほどこされているのでしょうが、それでもあの瞬速の早替わりは凄い!

もちろん、本水の場面もダイナミックでワイルドです!勘九郎、大量の水が流れ落ちる滝の中で、正助と三次を交互に早替わりしながら立ち廻りを演じるのです!こちらもすごい迫力で、目が離せませんでした!そしてあまりの早替わりのペースに、目が回りそうになりました(笑)。

それにしても…勘九郎ちゃん、本当にお父さんに似てきたなぁ…(しみじみ)。千秋楽まで、大きなアクシデントなく勤め上げて欲しいですね。

お関を演じた七之助は、それはまぁ美貌の人妻っぷり!楚々とした立ち居振る舞いの中にも隠しきれない艶のようなものを感じさせて、あれじゃ浪江じゃなくても一目惚れしちゃう!!


* * * * *


終演は21:25と、ふだんよりもちょっと遅めでしたが、真夏の夜にふさわしい、にぎやかでちょっとヒヤッとして、そして興奮の絶えない舞台でした。あ~、やっぱり歌舞伎は良いなぁ~!!(←定期的に言ってるw)

歌舞伎座の公演情報は、現時点で11月まで発表されています。この後も息をつかせぬほど、注目の大顔合わせが続きますね!華やかですね~。

目下の大注目はやはり、11月の顔見世夜の部でしょう。『勧進帳』の配役を見た瞬間、全ての歌舞伎ファンが、二度見したか、目をこすったか、一瞬時間が止まったか、頭の中が真っ白になったか、このうちどれかを体験したはずです(笑)。いやもう、想像するだけで震えが止まりません…!

詳しくはコチラから→歌舞伎美人 公演情報


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歌舞伎座 七月大歌舞伎 夜の部 [歌舞伎]

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2014年7月25日(金) 歌舞伎座 16:30開演

8月興行から200円から250円に値上がりするめでたい焼きですが……美味しいから、これからも食べるぞー!

玉三郎丈の『天守物語』を観たくて、歌舞伎座へ。前回の観劇は、何と2006年7月。実に8年ぶりの『天守物語』です。(その時の記事は、コチラから


猿翁十種の内 悪太郎

悪太郎/市川右近
修行者智蓮坊/市川猿弥
太郎冠者/市川弘太郎
伯父安木松之丞/中村亀鶴


【あらすじ】

狂言『悪太郎』を題材にした歌舞伎舞踊。

悪太郎(右近)は大酒飲みの上に酒癖が悪く、修行の僧侶(猿弥)にすら薙刀をふるって絡む始末。たまりかねた伯父(亀鶴)は召使いの太郎冠者(弘太郎)と図り、悪太郎が泥酔して眠り込んだ隙に髪の毛を剃ってしまいます。夢うつつで「南無阿弥陀仏」という名前をもらったと勘違いした(←これも伯父&太郎冠者のたくらみですが)悪太郎はすっかり改心します。


【カンゲキレポ】

狂言から題材をとった歌舞伎舞踊と言うことで、松羽目の舞台で繰り広げられる舞踊ですが、今回は装置に一工夫ありました。

幕が上がると、能舞台を模した、松羽目の舞台。ですが、舞台中央奥の板に描かれているはずの老松が、書割となって、背景板の前に設置されています。まるで松だけが、板から浮き出たような感じ。

その松羽目舞台で、まず父と太郎冠者のやりとりがあった後、書割の松だけを残して、スーッと背景板が上がっていきます。すると、今度はブルーの背景に月が浮かぶ舞台に。老松はそのまま真ん中に残っています。場面が屋内から屋外の野原に転換したということですね。ここで鳴物さんも登場。能楽ではあり得ない歌舞伎らしい斬新な演出で、感心しました。

右近は先月の巡業公演を休演したそうなので心配でしたが、すっかり回復したようで、何よりです。踊りながら酩酊した様子を表現するのって、すごく難しいのでしょうね。ロシアバレエの要素を取り入れた動きも、いつもの歌舞伎舞踊とはまた違った柔らかさ、しなやかさがありました。

猿弥は、さすがの安定感!この方が登場するだけで、何とも言えない安心感があります。右近とのやりとりも楽しい!

最後は伯父と太郎冠者も加わって、4人で連舞。夜の部の最初を飾るに相応しい、大らかで明るい舞踊でした。


* * *


修禅寺物語

夜叉王/市川中車
源頼家/市川月乃助
修禅寺の僧/市川寿猿
妹娘楓/市川春猿
姉娘桂/笑三郎
春彦/亀鶴


【あらすじ】

伊豆半島にある修禅寺には、真っ二つに割れた古面が所蔵されています。その古面から着想を得て、岡本綺堂が書いた戯曲。

鎌倉時代。北条氏の策略で伊豆・修禅寺に幽閉されていた源頼家(月乃助)は、同地に住む面作りの職人、夜叉王(中車)に自分の面を作るよう命じます。しかし、待つこと半年、夜叉王から面が完成したという報告はありません。しびれをきらした頼家は夜叉王の家を訪れ、早く面を作るようにと催促します。夜叉王は何度作っても満足のいくものが作れない、と釈明しますが、頼家は聞き入れません。

その時、夜叉王の娘、桂(笑三郎)が、夜叉王が前夜に完成させた面を差し出します。夜叉王は「その面には死相が出ている」と渡すのを拒みますが、頼家は構わず、その面を持ち帰る事にし、さらに桂を側女として出仕させることにし、彼女を伴って帰路につきます。

途中、桂川のふもとで言葉を交わす頼家と桂。実は桂は以前、頼家と言葉を交わしたことが忘れられず、お側近くに仕える事が出来るようにと…と100日間の願掛けをしていたことを打ち明けます。自分を慕う女性の思いに触れ、温かい気持ちになる頼家。しかし、すでに不穏な影が、2人に忍び寄ってきていたのでした。

その晩、頼家は北条方の急襲に遭い、若くして命を落とします。桂は父・夜叉王の作った面を着けて、頼家の身代わりとなって戦いますが、やはり瀕死の重傷を負い、息も絶え絶えの状態で実家に戻ってきます。夜叉王はその時初めて、自分が作った頼家の面に死相が浮かんでいたのは自らの技量不足ではなく、その運命を暗示していたからだと悟り、大いなる満足を得ます。さらに夜叉王は、死んでいく人間の断末魔の様子を面として写し取ろうと、筆をとるのでした…。


【カンゲキレポ】


実は観る前は、パスしようかな~……とまで考えていた不届き者です。直前になって、それこそ歌舞伎座へ向かう電車の中でチラシで配役を見て、そこで初めて月乃助と笑三郎が出演すると知り、「じゃあ見ておくか~」となった次第。…今にして思うと、とんでもなく不届き者でした……m(_ _;)m

ジャンルとしては新歌舞伎になる本作ですが、まるで時代物を堪能したかのような満足感がありました。

なんと言っても、月乃助と笑三郎が本当に素晴らしかった~!彼らの河原の場面だけで、歌舞伎をたっぷり満喫した~!という充実感と達成感がありました。

月乃助は、悲劇の運命をたどる若き将軍。高貴な身分でありながら、権力闘争に巻き込まれ、いつ命を狙われるか知れぬ我が身を、自らの力ではどうすることも出来ない境遇に対する焦燥感、桂と言葉を交わして得るひとときの安らぎ、最後の最後まで、将軍としての矜恃を保つ気品。まさに頼家そのもの。

科白のひとつひとつも上滑ることなく、しっかりと重みと響きを持たせていて、言うことなしです。北条方に囲まれてもなお、焦ることなく、悠々と立ち去っていく場面などは、大きな拍手を送りたくなりました。(←小心者なので、できなかった自分に自己嫌悪…)

その相手役の桂に、笑三郎。冒頭は、高貴な家に仕えることを夢見て、父と同じく職人の春彦(亀鶴)と結婚した妹の楓(春猿)をなじるような場面もあり、高慢な娘に見えますが、物語が進むにしたがって、わずかな縁を一途に想い続けていた事が判明し、そのいじらしさに胸がキュンとします。

河原で頼家と語らう時に見せるそこはかとない恥じらい、北条方の武士に見せる毅然とした態度、頼家の身代わりとして彼の狩衣、そして父が作った面を着けて、息も絶え絶えに戻ってくる姿……。笑三郎さん、何もかもが巧い!!

やはり、実力も華もある役者さんが、あるべき場所に立つべき立場で舞台に立っているのを観るのは、観客の目からしても気持ちが良いものです。

見応えのある、感動的な舞台でした。


* * *


天守物語

天守夫人富姫/坂東玉三郎
姫川図書之助/市川海老蔵
舌長姥/市川門之助
薄/上村吉弥
亀姫/尾上右近
朱の盤坊/市川猿弥
山隅九平/市川右近
小田原修理/市川中車
近江之丞桃六/片岡我當


【あらすじ】

武田播磨守の居城、白鷺城の天守。巨大な獅子頭が鎮座するその最上階には魔界の者が住み着き、人間たちは寄りつくことができません。

その天守に君臨する主人こそ、富姫(玉三郎)。この日、富姫のもとに猪苗代の城に住む亀姫(尾上右近)が遊びにやってきます。亀姫の住む猪苗代の城主は、播磨守の兄弟。亀姫は手土産にと、その生首を携えてきます。喜んだ富姫は、御礼にと、武田播磨守が大切している白鷹を奪い、亀姫に持たせます。

さてその深夜、富姫は白鷺城の天守にひとりで登ってきた人間の若者と対峙します。図書之助(海老蔵)と名乗る若者は、富姫が奪った白鷹を取り返しに来たと言います。

図書之助と話をしているうち、その凛々しさと爽やかさに心惹かれる富姫。しかし、天守最上階に登ってきた人間は戻してはいけないという掟のため、心を残しながらも、二度とここに来ることのないようにと強く言い聞かせて、図書之助を階下へ返します。

ところが図書之助は、階下へ戻る途中に大蝙蝠に灯りを消されてしまいます。漆黒の闇の中で足を踏み外して転落しては武士の名折れだと、図書之助は灯りを分けてもらうため、再び富姫のもとに戻るのでした。

しがらみの多い世界で主人である播磨守の理不尽な行いを聞くにつれ、図書之助を不憫に思う富姫。「そなたを返しとうなくなった」と、自分たちの世界に留まるようにと誘います。富姫に惹かれ始めていた図書之助は迷いますが、やはり元の世界へ戻ることを決意。すると富姫は、手土産にと、かねてから奪い取っていた播磨守秘蔵の兜を図書之助に手渡します。

兜を持って階下へ戻り、主人播磨守のもとへ戻る図書之助ですが、逆に秘蔵の兜を持っていたことで疑惑が深まり、追っ手をかけられます。窮地に陥った図書之助は、みたび富姫のいる天守最上階へ逃げます。無罪の罪で殺されるくらいなら、天守=異世界に足を踏み入れた罪であなたの手にかかって死にたいと訴える図書之助に、富姫は共に生きようと語りかけ、2人は獅子頭の中へ隠れます。

やがて、播磨守が差し向けた追っ手が天守を攻略し、獅子頭を取り囲みます。すると突然、獅子頭が動き出し、追っ手たちを蹴散らします。しかし槍で両眼を突かれ、富姫と図書之助は失明します。とっさに富姫が播磨守の弟の首(←亀姫の手土産)を投げ込むと、追っ手たちはそれを播磨守の首だと勘違いし、一目散に階下へと逃げていきます。

天守=魔界を守護する獅子頭の眼が潰れたことで、富姫と図書之助だけでなく、その世界の者たちも皆、失明してしまいます。

「千度百度にただ一度、たった一度の恋だというに」。嘆き悲しむ富姫を図書之助は強く抱きしめ、2人は共に死ぬことを決意します。

その時、どこからともなく(←ここポイント)、この獅子頭を彫った職人、桃六(我當)が現れます。桃六が手にした鑿(のみ)を獅子頭の両眼に当てると、なんとその眼が開き、同時に富姫と図書之助の眼も再び見えるようになります。万感の思いを込めて見つめ合う富姫と図書之助。ようやく想いが結ばれた2人を、桃六は満足げに見つめるのでした。


【カンゲキレポ】

あらすじだけで語り尽くした感もしますが……。やはりこの演目は、玉三郎あってこそのものだと強く感じました。「この世のものではない世界観」を生み出すには、誰もが納得せざるを得ないほどの世離れした美しさと不思議な存在感を持つこの方でないと完成させられないと思います。

とにかく!とにかく、玉三郎が圧巻!ヒロインとして舞台を引っ張るのは勿論ですが、立女方として全体に心を配りリードする姿、相手役の海老蔵との場面ではそのリードを立役である海老蔵に任せて寄りそう姿とか、その自在な舞台が光ります。

舞台装置はいたってシンプルで、舞台中央に段差をつけるために所作台を敷き、その四方に大きな柱が建てられているだけ。中央の所作台に、大きな獅子頭が鎮座しています。

ホリゾントいっぱいにスクリーンが設置されていて、そこに主に空の画像が写ります。

『天守物語』は、ある日の午後~夕方~深夜~夜明けと、1日足らずの時間の中で物語が展開するのですが、場面ごとに空の映像も午後の濃い青空、薄淡いオレンジの夕焼け空、漆黒の深夜、透明なパープルブルーの美しい夜明けの空……と変化していきます。亀姫や富姫の道行き(←魔界の人々は空を往来しています)の際は、籠(かご)や雲に乗る富姫の姿が映像に登場したりして。

シンプルな背景に、シンプルな装置なので、獅子頭、そして登場人物の存在感を際立たせることになります。

その存在感の中でも、やはり玉三郎は素晴らしかったです。

8年前に観劇した際は、まだ周囲を引っ張っていく気概が大きかったように感じたのですが、今回は、若手・ベテラン問わず、共演する役者さんたちを如何に舞台で光らせるか、ということに集中していたように感じました。それをしてもかすむことのないオーラと光の持ち主だからこそ、なせるわざとも言えましょう。

共演者全員が、玉三郎という大きな光に包まれながら、各々の個性を輝かせている、そんな風に感じた舞台でした。

今回、いちばん感じたのが、「玉サマ、超かわいい~!!ヾ(≧∇≦*)〃」ということ。(←不届き者)

亀姫とおしゃべりする玉サマ、恋する玉サマ……とてもとても可憐で、可愛らしさ満載なのです!

もちろん、ゆったりとしした物腰に、天守夫人としての威厳や気高さが備わっているのは言わずもがななのですが、亀姫と言葉を交わす時の気軽な感じですとか、図書之助に心揺さぶれる時のまなざしや、その胸にすっぽりとおさまっている時のいじらしさとか…なんか、本当に可愛らしいのです。

この可愛らしさは、今この時の『天守物語』だからこそ観られるのかなぁ~と思いました。

玉三郎が身につけている打掛も、それぞれ豪華で美麗で、見応えありました。玉三郎によってそれが動くと、まるで生ける美術品のよう。うっとりと見惚れました。



最近の玉三郎には、自分がかける舞台を通じて中堅若手育てようと言う意志が、以前よりも明確になってきているように感じます。

その期待に応える形で奮闘していたのが、22歳の若さながら亀姫を演じた尾上右近。姫らしい愛らしさに、首を手にとって平然としている不気味さが不思議な倒錯感を生み出します。まさに「時分の花」。これからもっと良い役者になるべく、学んでいって欲しいなぁ。がんばれ右近ちゃん!

そうそう、富姫と亀姫が所作台の上に並んで座る場面があったのですが、右近@亀姫の座り方がちょっと無造作で、片方の打掛の袖が内側に入り込んでしまったんですね。それを横目でチェックした玉サマ、芝居が進んでいる間に、右近の打掛の中にそーっと自分の手を差し込んで袖を引っ張り出すと、綺麗に形を調えてあげていました。お、おねえさま、素敵……!



海老蔵の図書之助も、とても良かったです。身分も格も違う富姫を相手に、男としての頼もしさ、優しさを充分に感じる良い芝居でした。



他にもユーモラスで出てくるとやはり安心感最強の猿弥@朱の盤坊、ユーモラスな存在感の門之助@舌長姥、奥女中らしい凛々しさが印象的だった吉弥@薄、出てくるだけで和やかで愛くるしい女童、短時間出番ながら印象を残す中車@小田原修理と市川右近@山隅九平など、役者揃いの素晴らしい舞台でした。


* * *


真夏の暑さを忘れさせてくれるような、爽やかで清涼感のある7月夜の歌舞伎座でした。



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十二世市川團十郎一年祭 團菊祭五月大歌舞伎 夜の部 [歌舞伎]

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2014年5月25日(日) 歌舞伎座 16:30開演

カンゲキ☆バースデー企画第3弾は、歌舞伎見物!

十二世市川團十郎一年祭と銘打たれた「團菊祭五月大歌舞伎」千穐楽夜の部を観劇いたしました(チケットを手配してくれたカンゲキ仲間さま、ありがとうございました!)。


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開演前には、もちろん「めでたい焼き」を食べて腹ごしらえ~!

簡単ですが、感想メモを書き残しておきます。


矢の根

曽我五郎/松緑
大薩摩主膳太夫/権十郎
馬士畑右衛門/橘太郎
曽我十郎/田之助

松緑の『矢の根』を観るのは、2002年の浅草歌舞伎以来、2度目のこと。…そう、私が初めて歌舞伎遠征した思い出の公演です。あ~…楽しかったなぁ…(←しばし思い出に浸る)。

松緑の良さは、「歌舞伎を観たぁ~!」という気分にさせてくれること。歌舞伎を観に来ているのですから当然なのですが、あの鮮やかな隈取の映える顔立ち、無駄がなく、それでいて力強いひとつひとつの所作、腹の底に響いてくるようなどっしりとした口跡…。

もう、松緑の全てが、理屈抜きに「歌舞伎」なのです。今の若手・中堅役者で舞台に在るだけで「歌舞伎」を体現できる数少ないひとりです。

「松緑」の名を襲名して、今年で12年目。その年月は大変な苦労と忍耐の連続であったことでしょう。それらの経験を何ひとつ無駄にはせずに積み重ねてきた松緑の歌舞伎への情熱と気魄が、わずか30分足らずの時間に深く刻み込まれた舞台でした。

松緑丈、今月は夜の部で蘭平を勤めているんですよね!うぅ~~…観たいぃ…。


極付幡随長兵衛

幡随院長兵衛/海老蔵
女房お時/時蔵
唐犬権兵衛/松緑
出尻清兵衛/男女蔵
極楽十三/亀三郎
雷重五郎/亀寿
神田弥吉/萬太郎
小仏小平/巳之助
閻魔大助/尾上右近
笠森団六/男寅
慢容上人/松之助
坂田公平/市蔵
伊予守頼義/右之助
渡辺綱九郎/家橘
近藤登之助/彦三郎
水野十郎左衛門/菊五郎

舞台を観ていてふと思ったのですが…ワタクシ、黙阿弥物は苦手かも知れない…(苦笑)。江戸の侠客と旗本のプライドをかけた争いを描いた作品なのですが、やはり現代人には納得できかねる展開ですよね…。

というわけで、ここは粋と意気の良さが身上の、江戸のおあにいさまチェックに余念のない一幕でした(笑)。←ベクトルの間違った解決策

最初に目を引くのは、舞台番新吉を勤める新十郎。スラリとした身体に細面の顔で、ハンサム~☆あんなカッコイイ舞台番さんがいたら、舞台そっちのけでそちらばっかり見つめちゃうわ~☆(←本末転倒)

そして、幡随院長兵衛の子分の1人、小仏小平を演じた巳之助。すっきりとした顔立ちに、ちょっと釘づけでした(笑)。

この舞台を引き締めるのは、やはり音羽屋、菊五郎!この方が登場するだけで、浮足立った空気がぐぐっと引き締まって深みが出ます。観客の視点からすると「憎まれ役」ではありますが、武士としての気位の高さを表現するだけでなく、主役の海老蔵の芝居をしっかり受け止め、返す様子はけた違いの風格です。

時蔵も、気配りがきいて情の深い女房お仲を熱演。夫の着替えを手伝う場面の手際の良さが本当に見事で、心の底から惚れ惚れしました。

その様子を観ていると、芸づくし忠臣蔵 (文春文庫)の中で、十二世團十郎丈が時蔵のお軽について話していたことをふと思い出しました。

六段目、お軽が祇園に売られることになり、夫である早野勘平と別れを惜しむ場面。

「わたしゃもう、行きますぞえ…」と名残惜しそうに出ようとするお軽を「お軽-ッ!」と勘平が呼び止め、その声にお軽がたまりかねたように駆け戻って勘平にすがりつき、そのお軽を勘平が抱き寄せて決まる、という演出があります。

團十郎丈いわく、「駆け戻ってきてすがりつく時、時蔵くんはいつも目を閉じるんです。もうどうなっても良いと言うようないじらしさがあって、良いなぁと思いました」。

発言自体はちょっとうろ覚えなのですが、「時蔵くんのお軽は、目を閉じる」という言葉は、すごくよく覚えているのです。こんな風に、團十郎丈のことを各々の心の中で思い出すのも、一年祭ならではだなぁと思いました。


春興鏡獅子

小姓弥生、獅子の精/菊之助
胡蝶の精/國矢、左字郎改め 名題昇進 蔦之助

いやもう…!

「絶品」というより他に言葉が見つかりません…!!

瑞々しさ、初々しさ、柔らかさ、たおやかさ、上品さ、どこをとってもまさに「弥生」。菊之助が弥生を舞っているのか、弥生が菊之助の身体を借りてそこにいるのか、一瞬わからなくなるような一体感。

扇を使った所作も、二枚扇も、最初から身体の一部であったかのように滑らかで破たんのない動き。

一転して、後シテの獅子の精は勇壮さの中に優雅さ、力強さの中に繊細さが見える素晴らしい出来。毛振りもやみくもに振り回すのではなく、毛の流れがまるで生き物のように優美にしなるように、綺麗に回していました。

まさに、極上の舞台でした。


* * * * *


お正月以来の歌舞伎でしたが、やっぱり良いなぁ~!←観るたびに言ってる(笑)


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