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仲道郁代 ピアノ・リサイタル [そのほか舞台]


2016年2月7日(日) サントリーホール 14:00開演


昨年は大阪滞在中だったため、そして一昨年はインフルエンザに倒れ伺うことのできなかった「仲道郁代 ピアノ・リサイタル」。今年、久しぶりに聴くことができました。

毎年、この季節に定期的に開催されているリサイタル。デビュー30周年を迎える2016-2017シーズンを前に、仲道郁代が充実と円熟、そしていつまで経っても変わらない清々しさと爽やかさを漂わせる圧巻の演奏を聴かせます。

今年のリサイタルのテーマは「ダンス」。バッハの時代の宮廷音楽やシューマンによるピアノ・ソナタ、ショパンが作曲したワルツ、そして彼の故郷ポーランドの伝統舞踊音楽「ポロネーズ」と、舞踏にまつわる曲で構成されています。

バッハ、シューマン、そしてショパン…こうして3人の作曲家の演奏を聴き比べてみると、一言で「西洋クラシック音楽」と言っても、表現やアプローチが全く異なるのだなぁ、と当たり前のことを改めて実感させられます。

宮廷音楽家として名を馳せたバッハの曲は、優美で端整で、「様式美」に則って作曲された様子が伝わってきます。

シューマンの曲は、その様式を越えたくても超えられない、魂の慟哭のような激しさと、嵐が過ぎ去った後の不思議な静けさが波濤の如く交互に押し寄せ、聴いている私たちの心も揺さぶられます。

ショパンの音楽は、彼の内面からにじみ出る言葉のような。

仲道さんはリサイタルでも、曲間の随所で作曲家のエピソードや曲が作られた背景を解説します。ショパンのワルツ第3番は、彼がウィーンで当時流行していたウィンナワルツの風潮に馴染めなかったために評価されず、失意の中で作曲されたものだとか。そう知ってから聞くと、指の細かく速い動きで表現される旋律は、さながら彼の失望の呟きのようにも聞こえてきます。

そして、「英雄ポロネーズ」という名前でも知られる、ラストのポロネーズ第6番。涙が出ました。

「ポロネーズ」は「ポーランドのリズム」という意味があるそうです。ポーランドでは「勇気を与える音楽」(仲道)として、国家の重大事—例えば兵士たちが戦地へ旅立つ際に、兵士も王族も民衆もポロネーズを踊り、互いに互いを励まし、勇気づけ、鼓舞してきたのだとか。

そして、第一次世界大戦でポーランドが壊滅的な被害を受けた際、ポーランドの人々は瓦礫の中でもピアノのある場所へ集い、ショパンの「英雄ポロネーズ」を弾き、明日への勇気と希望を抱いたのだそうです。

蘭寿とむのファンとしても、「英雄ポロネーズ」は忘れられない曲です。今回、これらのエピソードを聞いて、改めて、サヨナラ公演でショーの演出を担当した齋藤吉正先生が、蘭寿とむが男役として踊る最後の曲として「英雄ポロネーズ」を選択した理由の深さを感じました。吉正先生…ありがとう…(涙)。

仲道さんのピアノの音色は、ひとときの夢のよう。時には優しい幸せな夢、時には激しく翻弄される夢、自分の深層心理の奥深くまで沈んでいくような夢…曲によって、いくつもの夢を見ているかのような感覚に陥ります。

それでも最後は必ず、優しく柔らかな「愛のあいさつ」の音色で至福の夢に包まれます。2時間の夢の時間はあっという間に過ぎ去って、夢から醒めても、「また、美しい夢を見たい…」と、次のリサイタルが待ち遠しくてたまらない気持ちを抱えながら、家路につくのです。



【プログラム】

バッハ/パルティータ第1番 変ロ長調 BWV 825
(1725-30作曲)
プレリュード
アルマンド
クーランド
サラバンド
メヌエット1
メヌエット2
ジーグ

シューマン/ピアノ・ソナタ第1番 嬰ヘ短調 Op.11(1832-35年作曲)
第1楽章 序奏(ウン・ポコ・アダージョ)~アレグロ・ヴィヴァーチェ
第2楽章 アリア
第3楽章 スケルツォ(アリグリッシモ)と間奏曲(レント)
第4楽章 フィナーレ(アリグロ・ウン・ポコ・マエストーン)

ショパン/ワルツ 第1番~第8番
第1番 変ホ長調 Op.18 「華麗なる大円舞曲」
第2番 変イ長調 Op.34-1 「華麗なる円舞曲」
第3番 イ短調 Op.34-2 「華麗なる円舞曲」
第4番 ヘ長調 Op.34-3 「華麗なる円舞曲」
第5番 変イ長調 Op.42
第6番 変ニ長調 Op.64-1 「小犬のワルツ」
第7番 嬰ハ短調 Op.64-2
第8番 変イ長調 Op.64-3

ショパン/ポロネーズ第6番 変イ長調 Op.53 「英雄」(1842年作曲)


【アンコール】

ショパン/ノクターン第20番

エルガー/愛のあいさつ



本日の座席。
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「P席」と呼ばれる、ステージ真後ろ、パイプオルガン真下にあるお席です。

普通の客席と真正面から対面するので、仲道さんが奏でるピアノの音色に聴衆の心が吸い込まれていくのを肌で感じられるのです。万雷の拍手の中、凛と柔らかくたたずむ仲道さんの背中からあふれる神々しいオーラを目の当たりにできた、とても素敵なお席でした。


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