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人形浄瑠璃 文楽 五月公演 夜の部 [伝統芸能]

2015年5月24日(日) 国立劇場小劇場 16:00開演

祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)

金閣寺の段

豊竹咲甫大夫 竹澤宗助

爪先鼠の段
奥 竹本千歳大夫 豊澤富助
アト 豊竹靖大夫 鶴澤清志郎

[人形役割]
松永大膳/吉田玉志
松本鬼藤太/吉田玉勢
石原新五/吉田玉翔
乾丹蔵/吉田玉誉
川嶋忠治/吉田蓑次
雪姫/豊松清十郎
十河軍平 実は 加藤正清/吉田玉佳
此下東吉 実は 真柴久吉/吉田幸助
狩野之介直信/吉田蓑一郎
慶寿院/桐竹亀次


【あらすじ】


天下をねらう松永大膳は、将軍の母・慶寿院を金閣寺の楼上に幽閉し、横恋慕する雪姫とその恋人・狩野直信を牢に入れています。そこへ、此下東吉が大膳に仕官を申し出に来ます。東吉の機転に感心した大膳は東吉を軍師に迎え入れることにします。

大膳は稀代の名絵師・雪舟の孫である雪姫に龍の絵を描くように所望します。その際、手本を見せるために大膳が見せた刀を見て驚く雪姫。その刀こそ、雪舟の代から伝わる宝刀だったのです。ところが雪姫の父が何者かに殺害された折、その宝刀も奪われたのでした。雪姫は父の仇と大膳に斬りかかりますが、かえって取り押さえられ、庭の桜の大樹に縛り付けられてしまいます。そして恋人である直信も、処刑されるために引き出されていくのでした。

何とかして恋人を助けたい一心で、地上に降り積もった桜の花びらの上に、自身のつま先だけで鼠を描く雪姫。すると驚くべきことに、描かれた鼠に命が吹き込まれ、雪姫が縛られている縄を噛み切ってくれるのでした。自由の身となった雪姫は、恋人を救うべく一心に駆け出します。

慶寿院を救い出した久吉は、大膳と対峙します。大膳は不敵な笑いを浮かべ、本拠地である信貴山での決戦を約束するのでした。


【カンゲキレポ】

歌舞伎では何度か観たことのある『金閣寺』。歌舞伎では、これでもかというほどに降り注ぐ(というか落下してくる)大量の桜吹雪が印象的ですが、文楽の舞台ではより写実的というか、実際の桜の落花に近い形で、はらり、はらはら…と桜の花びらが舞い落ちて来る様子に、かえって奥ゆかしさと風情がありました。

縛られた雪姫がつま先を使って鼠を描くシーンでは、指先を動かすたびにパッと桜の花弁が舞い上がって、それがとても美しかったです。

敵役の松永大膳が、それはそれは憎らしくてふてぶてしくて、素敵でしたわ~!これは迫力ある義太夫節ならでは!だったかも。雪姫を責める時のサディスティックな凄みのある表情、東吉に追い詰められてもなお余裕のある不敵の笑み。敵役に魅力があればこそ、主要人物もイキイキと輝くのだなぁ、と改めて実感しました。

雪姫も、登場時はしおしおと涙を流してばかりだったのが、愛する人が死んでしまうという危機を突きつけられた時に見せる激情の表情は、釘づけになるほど。「エヽ あの大膳の鬼よ蛇よ、(中略)この恨み晴らさいでおくべきか」と絶叫する様子など、義太夫の緊張感と雪姫の凄絶に白い横顔が相乗効果を生んで、絶体絶命に追い詰められた女性の叫びが心にこだまするように響きました。


桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)

六角堂の段
お絹/竹本三輪大夫
長吉/豊竹睦大夫
儀兵衛/竹本津國大夫

竹澤團吾

帯屋の段
切 豊竹嶋大夫、野澤錦糸
奥 豊竹英大夫、竹澤團七

道行朧の桂川
お半/豊竹呂勢大夫、鶴澤勝蔵
長吉/豊竹咲甫大夫、鶴澤清丈

竹本南都大夫、鶴澤寛太郎
豊竹咲寿大夫、野澤錦吾
豊竹亘大夫、鶴澤燕二郎

[人形役割]
女房お絹/吉田和生
弟儀兵衛/吉田蓑二郎
丁稚長吉(六角堂)/吉田蓑紫郎
母おとせ/吉田文昇
親繁斎/桐竹勘寿
帯屋長右衛門/吉田玉女改め 吉田玉男
丁稚長吉(帯屋)/吉田蓑次
娘お半/桐竹勘十郎

[お囃子]
望月太明藏社中


【あらすじ】

京都の呉服屋「帯屋」の長右衛門は、さる商用の帰りで伊勢の宿に泊まった際、隣の店「信濃屋」の娘・お半一行と偶然出会います。お半達は伊勢参りの帰りでした。その夜、丁稚の長吉にしつこく言い寄られたお半は長右衛門の部屋に逃げ込みます。まだ14歳の娘のことだからと、長右衛門はお半を自分の布団に入れてやりますが、そこで2人は過ちをおかしてしまいます。

2人の噂に心を痛めたお絹は丁稚の長吉を呼び出し、噂がおさまるように働きかけます。小舅の儀兵衛や母おとせの陰謀も何とかやり過ごします。しかし、お半は長右衛門の子をお腹に宿していたのでした。お半と長右衛門は桂川を最期の地と定め、朧月夜の道を急ぐのでした。


【カンゲキレポ】

う~ん(苦笑)。

あらすじからして「おいおい」と突っ込みどころの多いお話かと思うのですが(笑)、どうにも長右衛門の思考回路に共感できません。この公演が襲名興行であった吉田玉男さんにとって夜の部の出番ではあったのですが。長右衛門を演じる玉男さんはとても素敵だったのですが。どうにも長右衛門が浅はかで甲斐性のない男なんですよね~。

お絹は「こういう大店の奥さん、当時はいっぱいいたんだろうな~」と思わせるたたずまい。如才なく夫を盛りたて、姑の嫌味に耐え、舅に心を尽くす夫。舞台が進むにつれて、お絹が気の毒で気の毒でたまりませんでした。

最後の道行でも、2人を追いかけてきた帯屋と信濃屋の人々の声が聞こえて来る…という語りがあるのですが、その中に、夫を思って必死に駆けて来るであろうお絹の姿が容易に想像できて、舞台上の2人ではなく、残されていくお絹や繁斎らの事ばかりを考えてしまいました。

それにしても…お半の可憐さ、健気さは異常でした(真剣)。

信濃屋の暖簾の内からすっと顔を出す時の愛らしさ、長右衛門にすがりつく時のいじらしい仕草とは反対に、ふとした横顔に女の香りがほのかににじむようで、そのアンバランスさが、何ともお半を魅力的に見せていました。す…凄いわ、勘十郎さん…!


* * *


東京の文楽公演は、次は9月。『伊勢音頭恋寝刃』と『妹背山婦女庭訓』が上演される予定だそうです。これも楽しみですね~。

最後になりましたが…吉田玉男さん、襲名、おめでとうございます!


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コメント 4

ささ

ああ~金閣寺見たい!見たいなあ~!
テレビでチラッと見てから歌舞伎でも文楽でも憧れなんです。
ただ美しいだけではなく、諦めない女性の強さを感じます。

玉男さんの襲名披露、私は大阪で「一谷ふたば軍記(漢字が出ません…)」を見ました。
涙を流さないはずの人形なのに、「ああ、熊谷は最後に涙した」と思えて感動しました。
by ささ (2015-05-25 21:54) 

★とろりん★

ささ さま

コメント、ありがとうございます。お返事が遅くなってすみません~!m(_ _)m

『金閣寺』は歌舞伎でも好きな演目のひとつです。華やかだし、ヒロインの芯が強い、でも可愛らしさを忘れない部分も描かれているところが良いですね。三姫はいずれもそんな、強さと愛らしさを備えているところが、人気のある理由のひとつでしょうね。

本格的に文楽を観たのは久しぶりでしたが、本当に人形に命が宿っているように見えるのですよね。舞台が生み出す奇跡だと感動しました。
by ★とろりん★ (2015-05-27 23:43) 

ラブ

文楽、大阪が本場なのに、一度も行ったことないですねぇ。
いかんなぁ。
by ラブ (2015-05-29 13:58) 

★とろりん★

ラブさま

nice!とコメント、ありがとうございます。

地元にあると、「いつでも行ける」って思ってしまいますよねぇ。でも、その演者さんの芸を見られるのは今しかない!私もいつか、国立文楽劇場に行きたいです。
by ★とろりん★ (2015-05-30 10:34) 

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