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歌舞伎座 七月大歌舞伎 夜の部 [歌舞伎]

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2014年7月25日(金) 歌舞伎座 16:30開演

8月興行から200円から250円に値上がりするめでたい焼きですが……美味しいから、これからも食べるぞー!

玉三郎丈の『天守物語』を観たくて、歌舞伎座へ。前回の観劇は、何と2006年7月。実に8年ぶりの『天守物語』です。(その時の記事は、コチラから


猿翁十種の内 悪太郎

悪太郎/市川右近
修行者智蓮坊/市川猿弥
太郎冠者/市川弘太郎
伯父安木松之丞/中村亀鶴


【あらすじ】

狂言『悪太郎』を題材にした歌舞伎舞踊。

悪太郎(右近)は大酒飲みの上に酒癖が悪く、修行の僧侶(猿弥)にすら薙刀をふるって絡む始末。たまりかねた伯父(亀鶴)は召使いの太郎冠者(弘太郎)と図り、悪太郎が泥酔して眠り込んだ隙に髪の毛を剃ってしまいます。夢うつつで「南無阿弥陀仏」という名前をもらったと勘違いした(←これも伯父&太郎冠者のたくらみですが)悪太郎はすっかり改心します。


【カンゲキレポ】

狂言から題材をとった歌舞伎舞踊と言うことで、松羽目の舞台で繰り広げられる舞踊ですが、今回は装置に一工夫ありました。

幕が上がると、能舞台を模した、松羽目の舞台。ですが、舞台中央奥の板に描かれているはずの老松が、書割となって、背景板の前に設置されています。まるで松だけが、板から浮き出たような感じ。

その松羽目舞台で、まず父と太郎冠者のやりとりがあった後、書割の松だけを残して、スーッと背景板が上がっていきます。すると、今度はブルーの背景に月が浮かぶ舞台に。老松はそのまま真ん中に残っています。場面が屋内から屋外の野原に転換したということですね。ここで鳴物さんも登場。能楽ではあり得ない歌舞伎らしい斬新な演出で、感心しました。

右近は先月の巡業公演を休演したそうなので心配でしたが、すっかり回復したようで、何よりです。踊りながら酩酊した様子を表現するのって、すごく難しいのでしょうね。ロシアバレエの要素を取り入れた動きも、いつもの歌舞伎舞踊とはまた違った柔らかさ、しなやかさがありました。

猿弥は、さすがの安定感!この方が登場するだけで、何とも言えない安心感があります。右近とのやりとりも楽しい!

最後は伯父と太郎冠者も加わって、4人で連舞。夜の部の最初を飾るに相応しい、大らかで明るい舞踊でした。


* * *


修禅寺物語

夜叉王/市川中車
源頼家/市川月乃助
修禅寺の僧/市川寿猿
妹娘楓/市川春猿
姉娘桂/笑三郎
春彦/亀鶴


【あらすじ】

伊豆半島にある修禅寺には、真っ二つに割れた古面が所蔵されています。その古面から着想を得て、岡本綺堂が書いた戯曲。

鎌倉時代。北条氏の策略で伊豆・修禅寺に幽閉されていた源頼家(月乃助)は、同地に住む面作りの職人、夜叉王(中車)に自分の面を作るよう命じます。しかし、待つこと半年、夜叉王から面が完成したという報告はありません。しびれをきらした頼家は夜叉王の家を訪れ、早く面を作るようにと催促します。夜叉王は何度作っても満足のいくものが作れない、と釈明しますが、頼家は聞き入れません。

その時、夜叉王の娘、桂(笑三郎)が、夜叉王が前夜に完成させた面を差し出します。夜叉王は「その面には死相が出ている」と渡すのを拒みますが、頼家は構わず、その面を持ち帰る事にし、さらに桂を側女として出仕させることにし、彼女を伴って帰路につきます。

途中、桂川のふもとで言葉を交わす頼家と桂。実は桂は以前、頼家と言葉を交わしたことが忘れられず、お側近くに仕える事が出来るようにと…と100日間の願掛けをしていたことを打ち明けます。自分を慕う女性の思いに触れ、温かい気持ちになる頼家。しかし、すでに不穏な影が、2人に忍び寄ってきていたのでした。

その晩、頼家は北条方の急襲に遭い、若くして命を落とします。桂は父・夜叉王の作った面を着けて、頼家の身代わりとなって戦いますが、やはり瀕死の重傷を負い、息も絶え絶えの状態で実家に戻ってきます。夜叉王はその時初めて、自分が作った頼家の面に死相が浮かんでいたのは自らの技量不足ではなく、その運命を暗示していたからだと悟り、大いなる満足を得ます。さらに夜叉王は、死んでいく人間の断末魔の様子を面として写し取ろうと、筆をとるのでした…。


【カンゲキレポ】


実は観る前は、パスしようかな~……とまで考えていた不届き者です。直前になって、それこそ歌舞伎座へ向かう電車の中でチラシで配役を見て、そこで初めて月乃助と笑三郎が出演すると知り、「じゃあ見ておくか~」となった次第。…今にして思うと、とんでもなく不届き者でした……m(_ _;)m

ジャンルとしては新歌舞伎になる本作ですが、まるで時代物を堪能したかのような満足感がありました。

なんと言っても、月乃助と笑三郎が本当に素晴らしかった~!彼らの河原の場面だけで、歌舞伎をたっぷり満喫した~!という充実感と達成感がありました。

月乃助は、悲劇の運命をたどる若き将軍。高貴な身分でありながら、権力闘争に巻き込まれ、いつ命を狙われるか知れぬ我が身を、自らの力ではどうすることも出来ない境遇に対する焦燥感、桂と言葉を交わして得るひとときの安らぎ、最後の最後まで、将軍としての矜恃を保つ気品。まさに頼家そのもの。

科白のひとつひとつも上滑ることなく、しっかりと重みと響きを持たせていて、言うことなしです。北条方に囲まれてもなお、焦ることなく、悠々と立ち去っていく場面などは、大きな拍手を送りたくなりました。(←小心者なので、できなかった自分に自己嫌悪…)

その相手役の桂に、笑三郎。冒頭は、高貴な家に仕えることを夢見て、父と同じく職人の春彦(亀鶴)と結婚した妹の楓(春猿)をなじるような場面もあり、高慢な娘に見えますが、物語が進むにしたがって、わずかな縁を一途に想い続けていた事が判明し、そのいじらしさに胸がキュンとします。

河原で頼家と語らう時に見せるそこはかとない恥じらい、北条方の武士に見せる毅然とした態度、頼家の身代わりとして彼の狩衣、そして父が作った面を着けて、息も絶え絶えに戻ってくる姿……。笑三郎さん、何もかもが巧い!!

やはり、実力も華もある役者さんが、あるべき場所に立つべき立場で舞台に立っているのを観るのは、観客の目からしても気持ちが良いものです。

見応えのある、感動的な舞台でした。


* * *


天守物語

天守夫人富姫/坂東玉三郎
姫川図書之助/市川海老蔵
舌長姥/市川門之助
薄/上村吉弥
亀姫/尾上右近
朱の盤坊/市川猿弥
山隅九平/市川右近
小田原修理/市川中車
近江之丞桃六/片岡我當


【あらすじ】

武田播磨守の居城、白鷺城の天守。巨大な獅子頭が鎮座するその最上階には魔界の者が住み着き、人間たちは寄りつくことができません。

その天守に君臨する主人こそ、富姫(玉三郎)。この日、富姫のもとに猪苗代の城に住む亀姫(尾上右近)が遊びにやってきます。亀姫の住む猪苗代の城主は、播磨守の兄弟。亀姫は手土産にと、その生首を携えてきます。喜んだ富姫は、御礼にと、武田播磨守が大切している白鷹を奪い、亀姫に持たせます。

さてその深夜、富姫は白鷺城の天守にひとりで登ってきた人間の若者と対峙します。図書之助(海老蔵)と名乗る若者は、富姫が奪った白鷹を取り返しに来たと言います。

図書之助と話をしているうち、その凛々しさと爽やかさに心惹かれる富姫。しかし、天守最上階に登ってきた人間は戻してはいけないという掟のため、心を残しながらも、二度とここに来ることのないようにと強く言い聞かせて、図書之助を階下へ返します。

ところが図書之助は、階下へ戻る途中に大蝙蝠に灯りを消されてしまいます。漆黒の闇の中で足を踏み外して転落しては武士の名折れだと、図書之助は灯りを分けてもらうため、再び富姫のもとに戻るのでした。

しがらみの多い世界で主人である播磨守の理不尽な行いを聞くにつれ、図書之助を不憫に思う富姫。「そなたを返しとうなくなった」と、自分たちの世界に留まるようにと誘います。富姫に惹かれ始めていた図書之助は迷いますが、やはり元の世界へ戻ることを決意。すると富姫は、手土産にと、かねてから奪い取っていた播磨守秘蔵の兜を図書之助に手渡します。

兜を持って階下へ戻り、主人播磨守のもとへ戻る図書之助ですが、逆に秘蔵の兜を持っていたことで疑惑が深まり、追っ手をかけられます。窮地に陥った図書之助は、みたび富姫のいる天守最上階へ逃げます。無罪の罪で殺されるくらいなら、天守=異世界に足を踏み入れた罪であなたの手にかかって死にたいと訴える図書之助に、富姫は共に生きようと語りかけ、2人は獅子頭の中へ隠れます。

やがて、播磨守が差し向けた追っ手が天守を攻略し、獅子頭を取り囲みます。すると突然、獅子頭が動き出し、追っ手たちを蹴散らします。しかし槍で両眼を突かれ、富姫と図書之助は失明します。とっさに富姫が播磨守の弟の首(←亀姫の手土産)を投げ込むと、追っ手たちはそれを播磨守の首だと勘違いし、一目散に階下へと逃げていきます。

天守=魔界を守護する獅子頭の眼が潰れたことで、富姫と図書之助だけでなく、その世界の者たちも皆、失明してしまいます。

「千度百度にただ一度、たった一度の恋だというに」。嘆き悲しむ富姫を図書之助は強く抱きしめ、2人は共に死ぬことを決意します。

その時、どこからともなく(←ここポイント)、この獅子頭を彫った職人、桃六(我當)が現れます。桃六が手にした鑿(のみ)を獅子頭の両眼に当てると、なんとその眼が開き、同時に富姫と図書之助の眼も再び見えるようになります。万感の思いを込めて見つめ合う富姫と図書之助。ようやく想いが結ばれた2人を、桃六は満足げに見つめるのでした。


【カンゲキレポ】

あらすじだけで語り尽くした感もしますが……。やはりこの演目は、玉三郎あってこそのものだと強く感じました。「この世のものではない世界観」を生み出すには、誰もが納得せざるを得ないほどの世離れした美しさと不思議な存在感を持つこの方でないと完成させられないと思います。

とにかく!とにかく、玉三郎が圧巻!ヒロインとして舞台を引っ張るのは勿論ですが、立女方として全体に心を配りリードする姿、相手役の海老蔵との場面ではそのリードを立役である海老蔵に任せて寄りそう姿とか、その自在な舞台が光ります。

舞台装置はいたってシンプルで、舞台中央に段差をつけるために所作台を敷き、その四方に大きな柱が建てられているだけ。中央の所作台に、大きな獅子頭が鎮座しています。

ホリゾントいっぱいにスクリーンが設置されていて、そこに主に空の画像が写ります。

『天守物語』は、ある日の午後~夕方~深夜~夜明けと、1日足らずの時間の中で物語が展開するのですが、場面ごとに空の映像も午後の濃い青空、薄淡いオレンジの夕焼け空、漆黒の深夜、透明なパープルブルーの美しい夜明けの空……と変化していきます。亀姫や富姫の道行き(←魔界の人々は空を往来しています)の際は、籠(かご)や雲に乗る富姫の姿が映像に登場したりして。

シンプルな背景に、シンプルな装置なので、獅子頭、そして登場人物の存在感を際立たせることになります。

その存在感の中でも、やはり玉三郎は素晴らしかったです。

8年前に観劇した際は、まだ周囲を引っ張っていく気概が大きかったように感じたのですが、今回は、若手・ベテラン問わず、共演する役者さんたちを如何に舞台で光らせるか、ということに集中していたように感じました。それをしてもかすむことのないオーラと光の持ち主だからこそ、なせるわざとも言えましょう。

共演者全員が、玉三郎という大きな光に包まれながら、各々の個性を輝かせている、そんな風に感じた舞台でした。

今回、いちばん感じたのが、「玉サマ、超かわいい~!!ヾ(≧∇≦*)〃」ということ。(←不届き者)

亀姫とおしゃべりする玉サマ、恋する玉サマ……とてもとても可憐で、可愛らしさ満載なのです!

もちろん、ゆったりとしした物腰に、天守夫人としての威厳や気高さが備わっているのは言わずもがななのですが、亀姫と言葉を交わす時の気軽な感じですとか、図書之助に心揺さぶれる時のまなざしや、その胸にすっぽりとおさまっている時のいじらしさとか…なんか、本当に可愛らしいのです。

この可愛らしさは、今この時の『天守物語』だからこそ観られるのかなぁ~と思いました。

玉三郎が身につけている打掛も、それぞれ豪華で美麗で、見応えありました。玉三郎によってそれが動くと、まるで生ける美術品のよう。うっとりと見惚れました。



最近の玉三郎には、自分がかける舞台を通じて中堅若手育てようと言う意志が、以前よりも明確になってきているように感じます。

その期待に応える形で奮闘していたのが、22歳の若さながら亀姫を演じた尾上右近。姫らしい愛らしさに、首を手にとって平然としている不気味さが不思議な倒錯感を生み出します。まさに「時分の花」。これからもっと良い役者になるべく、学んでいって欲しいなぁ。がんばれ右近ちゃん!

そうそう、富姫と亀姫が所作台の上に並んで座る場面があったのですが、右近@亀姫の座り方がちょっと無造作で、片方の打掛の袖が内側に入り込んでしまったんですね。それを横目でチェックした玉サマ、芝居が進んでいる間に、右近の打掛の中にそーっと自分の手を差し込んで袖を引っ張り出すと、綺麗に形を調えてあげていました。お、おねえさま、素敵……!



海老蔵の図書之助も、とても良かったです。身分も格も違う富姫を相手に、男としての頼もしさ、優しさを充分に感じる良い芝居でした。



他にもユーモラスで出てくるとやはり安心感最強の猿弥@朱の盤坊、ユーモラスな存在感の門之助@舌長姥、奥女中らしい凛々しさが印象的だった吉弥@薄、出てくるだけで和やかで愛くるしい女童、短時間出番ながら印象を残す中車@小田原修理と市川右近@山隅九平など、役者揃いの素晴らしい舞台でした。


* * *


真夏の暑さを忘れさせてくれるような、爽やかで清涼感のある7月夜の歌舞伎座でした。



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mami

玉様の天守物語、ご覧になったのですね!
私は今回幕見をねらったのですが、立ち見と言われて断念(弱気)してしまいました。やっぱり立ち見でもがんばってみるべきだったなあ、ととろりんさんの記事を読んで後悔しています。
by mami (2014-08-06 21:52) 

★とろりん★

mamiさま

nice!とコメント、ありがとうございます。
はい、7月は時間が出来たので、思い切って観てまいりました!
立ち見は自分の体調とか後々の事とか考えると、慎重になりますよね…。
こちらの記事をご覧になって、少しでも観た気になっていただけければ幸いです。
mamiさまも、7月は大阪(と岐阜)の芝居を網羅されて、羨ましい限りです!楽しく拝見しました~☆
暦の上では立秋となりましたが、まだまだ暑い盛り。夏負けせぬよう、睡眠と栄養をいっぱい摂って乗り切りましょうね。


by ★とろりん★ (2014-08-07 22:13) 

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